2023年1月6日(金)朝日新聞
「『能力』第一、急ぎすぎた私」
(タイパ社会 豊かな時間はどこに7)
組織開発の専門家、勅使川原真衣さん、「「能力」の生きづらさをほぐす」という本の著者で、この記事をきっかけに著書を読んだ。
外資系コンサルタント会社で働いていた当初「最優先したのは、最短最速で最善のゴールにたどり着き、時間あたりのパフォーマンス(生産性)を上げること」だったとあった。
転職後、同僚の4倍の顧客を持ち、睡眠時間を削り、土日もほぼ休みなく働いた。
そして、保育園の先生から「お子さんは靴ひもが結べません」と言われ、その言葉で「急いで」と支度をせかすあまり、「子どもが成長するための時間すら待てなくなっていた」と気づいたとある。
引用
「ブレークスルー(突破)の種は本人のなかにしかない。時間がかかっても、それが出てくるまで相手の言葉を受け取り続け、待つようになった」
というのが印象的。
タイパも生産性ももちろん重要ではあるが、それを追及したところで本当に生産性が上がっているのか。大事な機会を失っているかもしれない。
著書では、わたしたちが多用する「能力」について突っ込んでいる。なかなか能力を突っ込んで考えることは無かった。多用しているわりにはその中身について曖昧だと気づかされる。
引用
「とりわけ、厄介なのが、本書が主に扱う『能力』と呼ばれるものです。ある特定の『能力』を持つことが正しく、それを獲得することが人を幸せや成功に導く──そんなふうに語られることの多いこと。」
「しかし、人と人がともに生きる場で生じる不安や違和感の多くは、他者との『関係性』の問題。うまくいかないのは、あなただけの問題でも、個人の『能力』の問題でもありません。」
これは『はじめに』からの引用であるが、これが問題提起であり結論だと思う。
能力開発の陰で「関係性」が置き去りにされ、あなたにはこれが足りない・あれが足りないと「欠乏」を突きつける。
生み出されたのはむしろ、手のつけられないほどの個人主義的な人間観、自己責任論と言っても過言ではない、とあった。
これは、女性の生き方(男性も?)にも共通している。
あまりにも『自立』を重視しすぎる風潮があると思うのだ。
7つの習慣にも、第一の習慣に『主体性』があり、自立を促すが、その後の『相互依存』に至る過程で人は最も成長するとしている。
相互依存は自立よりはるかに成熟した状態だと。
日々の仕事では、能力という曖昧な言葉にすがったり、優越感を感じたり、有能感を感じたりして日々を送っている。
この弊害を考えなくてはならない。
できることとしては、勅使河原さんの著書の最後にあるように、無自覚な能力論への服従、言うなれば能力信奉を止めていくということだろうか。
「足元と、すぐ隣に目をやってほしい。今ここにすでに生きている自己と他者。」とある。
この本は、若い方向けに書かれており、とても読みやすい。もう少し詳しいものも読みたいが、とても良かった。